働き方・働く場の研究と視点

KNOWLEDGE

健康的にハイブリッドワークを続けていくために

2022.3.18
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コロナ禍をきっかけに
オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワークが普及しました。
「ハイブリッドワーク」と「働く人の健康」に着目し、
健康に関する指標と、オフィスや自宅で仕事をする際の作業環境
との関係を調査しました。
POINT:
ハイブリッドワークを行う人の健康に影響を与えるオフィスの作業環境は、「気軽な相談がしやすい」「職場の雰囲気が友好的である」「メンバーとのつながりが感じられる」、自宅の作業環境は、「同居者が在宅勤務に理解がある」「快適な空気や室温、明るさが確保できる」といった特徴があることがわかった。


コロナ禍による
働き方の変化

コロナ禍をきっかけに、オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワークを行う人が増えています。在宅勤務では、通勤時間の削減による心身の負担の軽減などのメリットがある一方で、長時間働きすぎてしまう、メンバーとのコミュニケーションがとりにくい、などの理由から、心身の不調を感じている人の存在も報じられています。オカムラで2021年に実施した、在宅勤務をしている人を含む3,000名を対象にした調査*の結果からも、回答者のおよそ3人に1人が「コロナ禍が心身の健康に悪い影響を与えている」と回答していました。

昨今のハイブリッドワークが広がる中で、健康的に働くためにはどのような工夫が必要なのでしょうか。それを知るためには、オフィスや自宅がどのような作業環境にあるのか、にヒントがありそうです。
*働き方・働く場の変化に関する調査2021データ集~【詳細版】~は、こちらからダウンロードできます。


作業環境は、
ワーカーの健康にどう影響する?

ハイブリッドワークを行う人の健康と作業環境がどのような関係にあるのかを明らかにするために、調査を行いました。ここからはその結果をご紹介します。オカムラは株式会社TATAMIと共同で、ハイブリッドワーカー(オフィス勤務と在宅勤務を併用するオフィスワーカー)500名を対象にアンケート調査を実施しました。オフィスワーカーの健康状態をとらえる指標は様々ですが、本調査では、「仕事のパフォーマンス」「ワーク・エンゲイジメント」「心理的ストレス」「幸福度」*1を選択し、その状態を問いました。また、経済産業省発行の「健康経営オフィスレポート」で提唱された健康を保持・増進する7つの行動*2をベースにオフィス勤務、在宅勤務の際の作業環境の特徴について尋ねました。さらに、健康状態をとらえる指標とオフィス勤務、在宅勤務の際の作業環境の特徴との関係を統計的な手法*3を用いて、分析しました。
その結果、ハイブリッドワーカーの健康に影響を与えるオフィスの環境の特徴は、
①気軽な相談がしやすい
②職場の雰囲気が友好的である
③メンバーとのつながりが感じられる
自宅の環境の特徴は、
①快適な空気や室温、明るさが確保できる
②同居者が在宅勤務に理解がある
ことがわかりました。ここからはハイブリッドワーカーの健康に関する指標と、作業環境の関係を分析した結果をご紹介します。
*1 パフォーマンス:病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価(「PQ(Single-Item Presenteeism Question 東大1項目版)」より引用)
ワーク・エンゲイジメント:仕事をしていると、「活力がみなぎるように感じる」「仕事に熱心である」などを7段階で評価(「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(日本語9項目版)」より引用)
心理的ストレス:「ひどく疲れた」「不安だ」「食欲がない」などを4段階で評価(「職業性ストレス簡易調査表」より引用)
幸福度:現在の幸福感について11段階で評価(内閣府「国民生活選好度調査」より引用)
*2 7つの行動(快適性を感じる、コミュニケーションする、休憩・気分転換する、体を動かす、適切な食行動をとる、清潔にする、健康意識を高める)をオフィス内で日常的に誘発させることが、従業員の健康を保持・増進するために重要であると述べられている。
*3 ワーカーの健康状態をとらえる指標を目的変数、職場環境に関する項目を説明変数として設定し、ステップワイズ法による重回帰分析を実施した。


01:
パフォーマンスを高める作業環境

まず、ハイブリッドワーカーのパフォーマンスの度合いとオフィス・自宅の作業環境の関係を見ていくと、図2に挙げた6つの要素が、パフォーマンスに影響を与えていることがわかりました。特に影響の大きい要素を見ていくと、オフィスでは「気軽に相談する機会がある」「ストレッチや体操などを行うことがある」ことが関係しています。オフィスでのコミュニケーションが良好であると、業務を円滑に行える可能性があります。また、オフィスでストレッチや体操などを行うことで体調が整い、より高いパフォーマンスを発揮できると考えられます。
一方、自宅については、「同居者は在宅勤務に理解がある」「自分の健康状態をチェックしている」ことが関係しています。同居者が在宅勤務に理解があると、気を遣わずに、集中して在宅勤務を行うことができ、より高いパフォーマンスを発揮できるのではないかと考えられます。また、自分の身体の状態を日々チェックしながら適度に休憩を取り入れることも効果的かもしれません。


02:
ワーク・エンゲイジメントを高める作業環境

次に、ハイブリッドワーカーのワーク・エンゲイジメントの度合いと、オフィス・自宅の作業環境の関係を見ていくと、図3の9つの要素がワーク・エンゲイジメント向上に影響を与えていることがわかりました。
オフィスにおいて、特に影響の大きい要素を見ていくと、「職場での雰囲気が友好的である」「自分の居場所があると感じる」ことが関係しています。出社した際の、職場の居心地の良さによって、ワーク・エンゲイジメントが高まると考えられます。
在宅勤務では、「空気を換気している」「育児を行うことがある」ことが関係しています。思い立ったときに自由に空気の入れ替えができたり、仕事と同時に育児ができることは、在宅勤務のメリットです。特に育児とワーク・エンゲイジメントの関連については、在宅勤務も可能で、かつ、働く時間に柔軟性があることが要因となっているのではないでしょうか。


03:
心理的ストレスを低下させる作業環境

次に、ハイブリッドワーカーの心理的ストレスの度合いとオフィス・自宅の作業環境の関係を見ていくと、図4の4つの要素が、心理的ストレス低下に関係することがわかりました。特に影響の大きい要素を見ていくと、オフィス勤務では、「職場の人とつながっている感じがする」が関係しています。職場の人との連帯感や一体感といったつながりを感じられることが、孤立感などを緩和させ、ストレスを低減させるのではないかと考えられます。
在宅勤務では、「室温が快適である」「ストレッチや体操などを行っている」が関係しています。心理的ストレスを感じずに自宅で働くには、室温の調整が大切だと考えられます。また、適度に身体を動かす機会があると、気分転換になり、ストレスを低減させる可能性があります。


04:
幸福度を高める作業環境

最後に、ハイブリッドワーカーの幸福度とオフィス・自宅の作業環境の関係を見ていくと、図5の6つの要素が幸福度の向上に関係があることがわかりました。特に影響の大きい要素を見ていくと、オフィス勤務では、「職場の人とつながっている感じがする」「気軽に相談する機会がある」ことが関係しています。オフィスで気軽に相談する機会があり、メンバーとのつながりを感じられている人は、孤立感などが緩和し、幸福度が高まると考えられます。
在宅勤務では、「作業面が十分に明るい」「外を散歩する機会がある」と回答する人が多い傾向にありました。 仕事の合間に外の空気を吸ったり、体を動かすことで、気分転換となり、幸福度が高まる可能性があります。


ワーカーの健康を
保持・促進するための提案

ここまでの調査結果より、健康的にハイブリッドワークを続けていくためには、オフィスでは職場のメンバー間のコミュニケーションが良好であり、在宅勤務では快適な個人の作業環境を確保することが大切であることがわかりました。オフィス勤務に比べ、在宅勤務は環境の快適性に関する要素が多くあがっていたことから、依然自宅の環境には改善の余地が残されていると言えそうです。また、在宅勤務に対する同居者の理解も必要であると考えられます。

ハイブリッドワーカーが健康的に働くために工夫できることはどんなことでしょうか。オフィスでは、職場のメンバー同士が気軽にコミュニケーションをとることができ、お互いのつながりを感じられるようにするために、カフェスペースや部門専用の部屋(部室)を設けたり、出社時のコミュニケーションを促すために部門で出社日をそろえるといった工夫ができそうです。自宅では換気や、室温・明るさの調整を奨励することや、仕事をする環境を整備するために会社からのサポートが必要になるでしょう。また、同居者の在宅勤務への理解を促す視点として、同居者の生活にも配慮し、業務で連絡を取る時間の配慮なども大切です。

Research: 嶺野あゆみ、浅田晴之(オカムラ)
Edit: 吉田彩乃
Illustration & Infographic: 浜名信次、藤井花(Beach)
Production: Plus81 inc.